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福祉、環境常任委員会委員派遣報告(平成19年)

更新日: 2012 年 04 月 27 日

長野県泰阜村(やすおかむら)と下條村(しもじょうむら) 平成19年7月9日(火)〜11日

平成19年9月11日
美里町議会議長 沼津敬太郎 殿
福祉、環境常任委員会 委員長 伊藤正雄
福祉、環境常任委員会委員派遣報告書
本常任委員会は、委員会規則第22条の規定により、下記のとおり調査を終了したので報告する。

1 調査年月日 平成19年7月9日(火)〜11日(水)
2 調査研修地及び調査事項
長野県泰阜村 高齢者福祉と若者定住促進の取り組みについて
長野県下條村 少子化対策の取り組みと効果並びに若者向け住宅建設による効果について
3 参加者 伊藤正雄、菅井洋治、相澤清一、福田淑子、吉城貢、千葉一男
4 調査報告

泰阜村の高齢者福祉と若者定住促進の取り組みについて

1 視察目的
1) 長野県泰阜村の福祉の基本的な考え方、在宅福祉に力を入れる理由とその効果。高齢者協同組合の概要を研修する。
2) 若者定住促進条例の中で「若者人口増加促進助成金」、「住宅新築事業等補助金交付」を実施しているが、その結果の分析検証内容と財政負担について。

2 長野県泰阜村の立地
泰阜村は長野県の南部、下伊那郡の南東、天竜川の東側に位置している。村の総面積は64.54平方キロで、林野率は86.8%を占め、南部と北部に19集落が点在している。平成19年7月1日現在の人口は2,002人、世帯数766世帯、高齢化率は38%である。

3 高齢者福祉の概要
1) 福祉理念と在宅福祉の始まり
誰もが老いて死んでいく事実を認め、障害をもっても人間らしい老後をおくり、幸せな死を迎える手伝いをすることが、行政の責任ではないか。
2) 理念に基づく3原則
・ノーマライゼーション
・自己決定
・社会参加

4 泰阜村高齢者協同組合プロジェクト計画の提案理由
介護保険制度は、2000年の施行当初から地方における制度・サービスの受け入れ態勢の不十分さを指摘されてきた。現時点でも状況は変わっていない。この発想のモデルは、近年スウェーデンの過疎地で始まった「自分たちの老後を国に任せておけない」という自主独立の精神が生み出した地域住民による協同組合の設立である。この運動は、高福祉を売り物にしてきたスウェーデンにおいても、近年福祉改革により、施設の統廃合が進み、要介護状態の高齢者が住みなれた村から遠く離れた見知らぬ特別老人ホームへの入所を余儀なくされ、この疎外感がもたらす悲しみへの共感と反発が地域住民を動かし、協同組合設立による高齢者住宅を村の中に作り、運営管理するという高齢者協同組合の活動を生み出している。日本における高福祉の先進的自治体の数少ない1つである。泰阜村と村民には、この精神が満ちているのではないかと感じ、このプロジェクトへの参加を提案する。
・この構想の前提としての過疎地における要介護者の現状
・地域における要介護者への対応
・地域住民による高齢者協同組合の設立と高齢者共同住宅構想

5 高齢者協同組合による高齢者共同住宅構想
1) 高齢者協同組合の設立
高齢者協同組合は中小企業等協同組合法に基づく、法律的枠組みをふまえ、地域の活性化と保健、医療、介護ケア統合のための独自な地域システムを協議・創設していくことを基本とする。主たる経済基盤は、協同組合員の出資金及び利用料だが、今回の地域再生交付金を高齢者共同住宅にかかわる建築資金と設備資金とし、運営管理費は原則として協同組合で賄う。
2) 高齢者共同住宅建設について
・共同住宅は古い既存の建物を利用し、高齢者にとって適応が困難な従来の様式からかけ離れた近代化は行ない。
・現在のバリアフリー住宅の枠を結集する。
・夫婦世帯が入居可能なスペースを確保した個室とする。(ベット、トイレ、ミニキッチンを常備し、仏壇、茶箪笥、整理ダンスなど収納スペースを確保)
・可能な限り地域の中心から外れない建設地を確保する。
・共同浴場については、要介護者も他の元気な入居者とともにリフターを利用して一緒に入ることができる。
・共同浴場は毎日自由に入ることができる。また夫婦単位で入浴することもできる。
・共同住宅のリビング・ダイニングは、他の住民が自由に喫茶や昼食を利用しながら交流することができるコミュニティの役割をもてるように開放する。
3) 過疎地における保健、医療、福祉の統合に向けた提案
要介護高齢者が住みなれた地域で安心して暮らすための条件は、緊急通報システム、24時間の訪問看護体制、ホームヘルプサービス、365日の配食サービスであるといわれている。実際に泰阜村では、独居の要介護高齢者を介護保険制度と地域サービスでケアした試みが知られているが、そこでは1人1月100万円を要し、介護保険で足りなかった65万円を補助金で賄ったことは、地域での介護サービスを検討していくための、貴重なデータとなっている。
4) モデル調査事業実施による考察
・自分たちの老後を行政任せにしないという考え方
・住み慣れた村で最後まで暮らすことを可能にする。
・自分たち自身の手で、高齢者共同住宅を建設し、管理運営する。
 実際に可能かどうか。また、こうしたことが地域や高齢者にとって有効かつ幸せなことか検証する。
5) 具体的な考察
(1) 高齢者協同組合の活動にふさわしい共同住宅の条件の構想
・共同住宅の機能
・共同住宅のあり方
・共同住宅の構造
・今回は新築による住宅(今後は空き家の利用)
(2) 高齢者協同組合の組織・運営のあり方
・高齢者協同組合自体の共同住宅運営のメリットとデメリット
・村民の高齢者協同組合の考え方や共同住宅運営の受け止め方
(3) 高齢者協同組合の運営方法等の検討
・会員の募集
・会費・出資
・会員の義務
・組合の事業

6 視察のまとめ
今回「高齢者協同組合」プロジェクトの提案を受け、1年間のモデル調査事業で考察を行い、今後の泰阜村が、福祉理念に基づく3原則を踏まえ、在宅福祉を進めていく上で、共同住宅(集合住宅)を開設することは、保健・医療・福祉・交流の連携を効率的(コンパクト)に行うことのできる方策として大変興味深く研修した。「高齢者協同企業組合泰阜」の共同住宅開設は、平成21年1月を予定しており、現時点では大枠の設計図面が完成しているが、共同空間(リビング・ダイニングなど)の具体的な部分を再検討中である。
・指定管理者制度
・まちづくり交付金 1億3千万円
・町営の集合住宅 12戸(ユニット) 「高齢者共同住宅」建設
・さまざまな交流事業を展開する。
本町においても、近い将来の高齢化を考えるとき、ひとつの方策として研究、検討すべき事業でないかとの意見をつけて報告する。

7 泰阜村若者定住促進条例
過疎化及び高齢化を緩和するため、必要な措置を講じ若者の定住促進と人口の増加を図るとともに、若者が魅力ある独創とロマンに満ちた豊かで活力ある村づくりに寄与することを目的とする。
1) 若者人口増加促進助成金
・ I・Uターン助成金(夫婦20万円・単身10万円・子ども15歳未満1人につき5万円)
・ 後継者助成金(10万円)
・ 結婚仲介報償金(1組につき5万円)
・ 出産祝い金(第1子10万円・第2子20万円・第3子以上の1子に付き50万円)
・ 海外配偶者確保祝い金(100万円)
2) 住宅新築事業等補助金
・ 住宅新増改築補助金(定額80万円・I・Uターンした者が建設する場合100万円)
・ 住宅用地取得補助金(取得価格の100分の30以内で限度額100万円)
3) 実績
平成18年度 I・Uターン助成金4件 50万円
出産祝い金 9件 280万円
住宅新増改築補助金 5件 420万円
18年度合計 18件 750万円
平成6から18年度合計 8,676万円
・ 元資は、ふるさと創生基金 2億円(基金繰り入れ)
・ I・Uターンの募集により平成6年から現在まで40世帯80人ほど
・ 人口動態では、自然減で30人程度、社会的には横ばいである。
・ 広告代理店(リクルート)によるIターンフェア(東京池袋サンシャイン)で1ブースを使用し、チラシやパンフレットの配布や相談会を行う。(雑誌に紹介された)

8 視察のまとめ
泰阜村若者定住促進条例は、平成6年に議員提案で条例化、周辺の自治体において先んじて取り組んでいる。しかし、特別に効果が上がっている様子も見られず、財政状況においても大変厳しい状況が、数値からも読みとれる。話の中で近々2集落がなくなることや「ふるさと思いやり基金」への寄付のことが説明されたが、総体的には限界集落(自治体)の今後のあり方を複雑な思いで感じてきた。

長野県下條村の少子化対策の取り組みと効果並びに若者向け住宅建設の効果について

1 視察目的
1) 下條村の特殊出生率は2.12である。若者人口率(0〜14歳)は17.5%で、長野県第1位と聞く。しかも、人口増加が続いていると思われるが、これらの結果を出す要因はどのようなことがあるのか。
2) 若者定住促進住宅の建設を、毎年1〜2戸続けているが、以下のことはどうなっているか。
・入居費
・入居条件
・入居者のうち在村住民と、他地域からの入居者数は。
・今後の建設計画
・子育て支援の施策
3) 公債費比率が5.2%(平成18年度)とかなり低い。工夫は何か。

2 下條村の立地
下條村は、長野県の最南端、下伊那郡の中央に位置し、飯田市に隣接している。飯田ICからは20分である。総面積は、37.66平方キロ、標高332mから828mに34集落が散在している。人口は4,211人、世帯数1,281世帯、65歳以上人口1,212人で高齢化率は28.78%である。平成19年度末に三遠南信自動車道天竜峡インター供用開始予定である。インターからは7分の距離になる。

3 下條村の状況
首長の公約は「人口を増やす」であり、若者が定住することが、最大の福祉であるとの考えである。基礎自治体として「顔が見え、体温が感じられる」行政の適正規模は5千人程度であるとし、昭和63年以降、職員の嘱託化を進め、退職者の不補充や保育所の統合、係長制の廃止、収入役を置かないなど、徹底した行財政改革を行い、組織のスリム化を成し遂げた。「資材支給事業」による道なおしが、毎年盛んに実施され、全村民参加による村づくりが定着をしている。また、「合併処理浄化槽」の全村導入により、初期投資や運営費の大幅なコストダウンにも成功している。
19年4月現在の状況
一般行政職34名、保育士6名、保健師2名、広域派遣1名含む
嘱託職員22名、学校給食調理員3名、学校公仕2名、司書補助1名、保育士8名、保育所調理員2名、公園管理人1名、園児バス運転手兼福祉員2名、温泉管理人2名、道の駅管理人1名、役場公仕1名 、オフトークアナウンサー1名など
人口千人当の職員数は、16年度財政状況調べによると、下條村は8.56人で、類似団体は16.05人(一般職員)である。
経常収支比率は73.9%、人件費比率は15.6%とのことであった。

4 資材支給事業について
1) 目的
この事業は、地域住民の生活環境を整備するために、住民自らが施工する工事に関し、村がその資材を支給する。
2) 該当工事
村道整備 受益者3名以上の舗装、敷き砂利、側溝付設、横断工、口蓋、グレーチングなど
農道整備 上記に同じ
水路整備 受益者3名以上の土側溝の整備、漏水箇所の整備、取水施設の整備ほか
3) 事業費
年間予算は、約2千万円〜3千万円である。平成4〜17年度の総事業費の合計は2億3,652万7,772円で、1,002箇所を整備している。

5 上下水道の取り組みについて
1) 上水道事業
昭和60年から平成2年までの6年間で完成した。総事業費は、29億8千万円で、加入率99.5%である。
2) 水道事業
平成元年から検討に入る。当時国、県は公共下水、農業集落排水事業を積極的に推進した。
3) 検討課題
・ 公共下水、農集排の建設費は上水道事業費の1.5倍はかかるといわれ、43から45億円くらいかかると試算。
・ 管渠の布設では、1m約10万円かかり、イニシャルコストは、当然ランニングコストも未来永劫上昇し続ける。
・ 自己責任、自己管理意識の高揚を図ることができる。
・ 設置者の事情に合わせて、設置計画が可能であるなど。
4) 下水道を合併処理浄化槽事業で行うことに決定
総事業費は、6億3,230万円で、829基(平成2〜15)を整備している。
村負担金は2億2,444万円
県補助金は2億393万円 → 全額単年度処理 後年度負担なし
国補助金は2億393万円
5) 村の補助
7条法定水質検査料 12,000円(設置時1回のみ)
11条法定水質検査料 5,000円(毎年1回、村で負担)
上記の検査料は、通常年間400万円になる。このほか平成16年度から保守点検料年間21,000円のうち半額を補助している。従って、平成16年度の負担金は1,300万円となる。

6 住宅施策と少子化対策
「村民が村の活力の源」との考え方から、若者定住促進住宅の建設や分譲住宅地によって、人口増加を図り、平成2年の3,859人を19年4月には、4,216人まで、増加した。(若者人口率17.1%は県下1位)
1) 若者定住促進住宅の建設(平成9〜18年度)
10棟 124戸建設(内訳 9棟×12戸=108戸、1棟×16戸=16戸)
1戸建て住宅 54戸 合計178戸
・ 補助金を使わない住宅の建設(入居者をフリーハンドで選択できる)
・ 若者定住促進住宅とし、入居条件を「子どもがいるか」、「これから結婚する者」に限定する。保証人は2人
・ 入居する若者が地域に溶け込み、村の行事への参加や消防団へ加入するなどを入居条件にした。
・ 入居者同士のコミュニティも円滑で、子育てなどでも助け合う姿が見られている。
・ 入居費は、36,000円。入居者の8割は転入者である。
・ 今後の建設計画は、1棟を予定。
2) 幼児から中学生まで医療費を無料化(16年度より)
3) 保育料の10%引き下げ(19年度)
生涯出生率
平成5〜9年 1.8人
平成15〜17年 2.12人(平成17年全国平均1.25人)

7 活性化対策
村の負担が少ない「有利な起債」を活用し、道の駅(そばの城)、図書館(あしたむらんど下條、体育館(インドアスポーツセンター)、文化交流センター(コスモホール)、医療・保健・福祉の総合センター(いきいきらんど下條)、村営住宅を建設し、多様化した住民ニーズに対応している。
1) 村づくりの指標(平成17年度の普通会計)
財政力指数 0.220
経常収支比率 73.9
起債制限比率 2.1(県下1位)
実質公債費比率 5.2(県下1位)
起債残高(18年度末)総額は22億2,776万円であり、そのうち交付税措置分を除いた実質起債残高は6億7,200万円である。・・・A
基金現在高(18年度末)の一般会計基金分は26億3,237万円である。・・・B
差し引きB−A=19億6,037万円である。

8 視察のまとめ
まず、危機感をもって職員の意識改革に取り組み、組織をスリム化した成功例といえる。次に資材支給事業や合併処理浄化槽の導入により、住民参加による村づくりが定着した。さらに若者定住促進住宅の建設により、人口の増加を図るとともに公共施設の整備や、福祉施策の充実を果たしていた。そこには、村づくりの指標となる財政指数の健全化と長期の財政見通しや、新たな行政システムへの取り組みが明確であり、本町においても、長期総合計画にそって一層の事務事業の精査と意識改革を望むものである。