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産業、建設常任委員会委員派遣報告(平成21年)

更新日: 2012 年 04 月 25 日

三重県多気町 平成21年7月16日〜18日

平成21年9月8日
美里町議会議長 沼津敬太郎 殿
産業、建設常任委員会 委員長 吉田眞悦
産業、建設常任委員会委員派遣報告書
本常任委員会は、委員会規則第22条の規定により、下記のとおり調査を終了したので報告する。

1 調査年月日 平成21年7月16日(木)〜18日(土)
2 調査研修地及び調査事項
三重県多気町
農業振興施策と相可高校のレストラン運営について
企業誘致と定住化促進(大規模住宅団地の分譲)について
3 参加者 吉田眞悦、平吹俊雄、梁川慶一、相澤清一
4 調査報告

1.視察目的

(1) 農業振興施策と相可高等学校のレストラン運営について
多気町における農業振興施策と五桂池ふるさと村及び高校性レストランの運営(全国で1ヵ所)について調査する。
(2) 企業誘致と定住化促進(大規模住宅団地の分譲)について
企業誘致と大規模住宅団地の分譲や商業用地の開発等について調査する。

2.多気町の概要

平成18年1月1日に多気郡多気町と勢和村が合併し、新しい「多気町」としてスタートした。三重県のほぼ中央に位置し、人口約1万5千人、面積103.17平方キロメートルの町である。
地目別では山林の占める割合が高く、年間の平均気温は14.9℃と全般的に温暖で穏やかな気候に恵まれている。
伊勢神宮と京都・奈良・和歌山方面を結ぶ伊勢本街道や和歌山別街道、熊野街道の道筋であったことから宿場町として栄え、この地が経済的中枢であった。現在では、以前から盛んであった農林業に加えて多気工業団地の開発など、都市的な産業形態への変化も進行している。
新町は、「自然と産業が調和し、みんなで創る心豊かなまち」を将来像としてかかげ、まちづくりを進めている。

3.産業・経済・交流

多気町は、大台山系の山々を背に櫛田川、宮川等の清流を保持し、恵まれた自然の中で農業を基幹産業として発展してきた。稲作を主とする果樹、野菜、畜産の複合経営が営まれており、ミカン、柿、伊勢芋、茶、葉タバコ等は県内有数の産地となっている。また、面積の60%弱を占める山林を資源としたシイタケの生産も盛んである。
近年では、環境と立地条件の良さから、シャープ株式会社三重工場及びその関連会社の進出があり、働く場が創出され、それに伴い大規模住宅団地の分譲、商業用地の開発などが行われている。また、多気町・シャープ国際交流基金を設立し、アメリカ合衆国ワシントン州キャマス市と友好都市提携を結び、青少年を中心に広く町民が参加できる国際交流活動に取り組んでいる。

農業振興施策と相可高等学校のレストラン運営について

(1) 多気町と相可高等学校
多気町の名は、三重県立相可高等学校の食物調理科の生徒たちが町ぐるみの支援により「まごの店」で実習を行い数々の優秀賞を受賞し、地域活性化に貢献したことにより多数のメディアに取り上げられた。地元の人たちだけでなく、評判を聞いて訪れる遠来の客をもてなし、生徒たちが地元産品を使って調理する料理は多彩で味も申し分ない。
全国でも珍しい高校生によるレストランを運営することになった経緯は、有名な調理師専門学校を退職して相可高校に赴任した村林新吾教諭による指導と、多気町職員で地域活性化施策に積極的に参加している岸川政之農林商工課長の影響が大きい。
岸川氏は、農林商工課の業務で、基幹産業である農業の活性化として土着菌の培養や生ゴミを利用した堆肥作りに取り組み「多気有機農業研究会」として組織化に尽力した。また、平成12年には、地元で取れる特産の伊勢芋、柿、ミカンなどの農作物を使った試食会を町のイベントとして実施した。ここで、地元食材の調理方法を考えた村林教諭の指導により生徒たちが作った料理は、「ホテルのバイキング料理」のような出来で町づくりに生かせないか模索することになった。
この二人が中心となり町と学校の関係が続き、多気町が原産地である「伊勢芋」を使った手延べ半生うどん「とろろ麺」を開発し販売したところ、大きな話題を呼び売り上げに貢献した。
(2) 食物調理科の高校生シェフ
生徒たちが一般の人たちを相手にして実習を行う場が「まごの店」である。調理の腕が上がっても接客やコスト管理は学校では学ぶことができない。生徒たちは高校生シェフとなり、店で客に叱られることによって接客の難しさが身に付くという。
高校生シェフたちのスケジュールは、朝早くから村林教諭と共に食材を市場に買い出しに行き、授業を終えた後は課外活動で夜7時ごろまで実習に励む。土日を含めると毎日の活動であり休日はほとんどない。
食物調理科が出来てから、全国料理コンクールの入賞回数は180回を超えている。全国の調理専門課程がある公立高校ではナンバーワンの実績を誇る。
(3) おばあちゃんの店とまごの店、そしてせんぱいの店
「まごの店」は、江戸時代の寛文年間に時の藩主の命令で造られた灌漑用ため池「五桂池」に面する「ふるさと村」の中にある。人口1万5千人の町に年間35万人の来場者がある五桂池ふるさと村は、町の指定管理者として指定を受けた自治会(会員300人)が運営する全国でも珍しい体験型のレジャー施設を備えている。また、敷地内にある農産物直売所おばあちゃんの店(年間売り上げ約2億6千万円)での経営も安定していた。ここに、高校生レストランの企画を申し込んだが、前例がないため承諾を得ることができなかった。そこで、生徒たちは夏休みにふるさと村でアルバイトをするなど熱意をアピールした結果、自治会から300万円の出資を受けて、平成14年10月に屋台形式でうどんや田楽を販売する初代「まごの店」が誕生した。
相可高校は生徒の実績があることから高い評価を得ていた。さらに、平成15年6月には文部科学省の「目指せスペシャリスト事業」の指定を受けたことから地域が一丸となり、常設のレストラン開店に向けて本格的に検討に入った。しかし、県立高校の活動の場に町が出資することに対し、県教育委員会から管轄の違いで難色を示されたが、何回も協議を重ねて、全ての責任をふるさと村(町)が負うことで解決した。そして、町、県立高校、教育委員会等の理解と協力により約9千万円の予算を編成し、平成17年に現在の店舗の開店に至る。建物の設計は、将来建築家を目指す県下の高校生にコンペを呼びかけ、最優秀賞となった四日市工業高校の生徒が設計した半円形状で開放的なものである。高校生シェフの頑張る姿をお客さんに見てもらいたいことからオープンキッチンに設計してあり、店内はすべてバリアフリーとなっている。つまり、「料理人を目指す高校生の夢を、建築家を目指す高校生が形にする!“その夢”を多気町やふるさと村といった地域が応援する!」という取り組みが出来上がったのである。
高校生シェフは、店の営業から材料の仕入れ、コスト管理まで全て自分たちで行う。まごの店で使う食材の多くは農産物直売所おばあちゃんの店から仕入れ、店から出た生ゴミは多気有機農業研究会に引き取ってもらい堆肥化となる。その堆肥を利用しながら農家は農作物を育てる。ここに、地域循環型農業が形成されている。
また、平成20年9月、相可高校食物調理科の卒業生が運営する「せんぱいの店」が町内クリスタルタウンのマックスバリュ店内に開店した。できたての惣菜を量り売りする店で弁当も販売している。地域が一丸となって地元に若者の雇用の場を提供したようだ。ちなみに、卒業生の就職率は100%とのことである。(海外からの誘いもある)
(4)多気町の食と活性化
多気町の合言葉は「エイチ(英知)あふれる町」であり、平成19年5月には、自由で夢あふれる発想が地域をよくする「まちづくり仕掛け人塾」が設立された。実際に活動しているプロデューサーがメンバーとなって8委員会をスタートさせて、地域活性化の知恵を絞り出している。現代は、食の安全・安心が脅かされているため、食料問題が重くのしかかっている。
多気町では「自給自足、地産地消。どんなことがあっても、多気町で賄うことができる。そのためには農業をきちんとしないといけない。」、「食の安全・安心。それができる循環型社会をつくるのが夢だ。質の高いスローライフができる環境をつくるのが行政の仕事である。」と言っている。

実践を通して学ぶ高校生シェフたち(まごの店内)





実践を通して学ぶ高校生シェフたち(まごの店内)

【参考】
・目指せスペシャリスト事業
専門高校の活性化の促進を図る観点から、バイオテクノロジーやメカトロニクスなど先端的な技術・技能等を取り入れた教育や学習活動を重点的に行っている専門高校を指定し、技能の習得法や技術の開発法、学校設定科目などカリキュラム開発、大学や研究機関との効果的な連携方策についての研究等を推進し、「将来のスペシャリスト」の育成に資する。
取り組み等
・市場性が高い新品種の開発支援(希少植物の培養等)
・専門高校生が受験可能な高度資格への挑戦ができるだけの学力をつける支援
・職業能力開発大学校と連携した専門職業人の育成
・専門高校の技術力を生かした海外協力
・研究成果の特許出願への挑戦支援
・各種クラブ活動の充実
・学習指導要領によらない教育課程の編成等
国ベース予算 9億円(平成15年度予算)
・多気町「まちづくり仕掛人塾」とは
エイチ(英知)あふれる多気町を合言葉に、自由で夢あふれる発想に基づき、地域がよくなると思う仕掛けについて、調査・議論・検討及び提言等を行うとともに、その実現に向けて活動することを目的に平成19年5月に設立。ボランティアの団体であり構成員は町長の任命により活動している。現在の在籍者数は27人である。
【特徴】
仕掛人塾において提案された仕掛けについては、過半数の承認があれば取り組みを行う。その姿勢として地域をよくしようという提案に対しては“できない理由を探す”のではなく、“実現できるようにアドバイスを行うなどの協力をする”という肯定的なスタンスで望む。現在、お祭りやイベントの企画、街道の利活用や公園整備など9つの委員会を立ち上げて仕掛けをしている。設立後2年間で推定1億円以上の効果をもたらしたとのことである。

企業誘致と定住化促進について

(1) シャープ工場と相可台団地
平成7年多気町にシャープ株式会社液晶工場が進出し、関連会社を含め3,000人規模の職員の定住化を目指し、大規模住宅団地(650戸分)を造成した。
現在まで約300戸が入居しているという事であるが、1坪あたり17万円の販売単価もあり計画どおりに販売が進んでいない状況である。工場関係者の多くは隣接する松坂市へ住む都市型住居が多いようである。(岩手県金ヶ崎町と同じ現象がある)
また、アパートにおいては、シャープの関係者で常に満室であるという話であり、今後、販売単価についても考えていく必要があるとのこと。
なお、多気町における町税約30億円のうち、シャープ関連からは60%を占める。
(2) 多気クリスタルタウン計画
クリスタルタウンは総面積43haの産官民が連携し働く場所から、ふれあい、くつろぎが生まれる豊かな自然現象を生かした街。3つのエリアに分けて整備している。(平成15年よりスタート)
・商業生活ゾーン
国道42号と町道クリスタル線に囲まれる10万平方メートルを隣接するホテルやミニテナント街と共に「商業」の新しい街を創設すべく進めている。その核としてマックスバリュが入り平成20年4月にオープンした。その中に相可高校食物調理科の卒業生で作るせんぱいの店があり、県内外から注目を集めている。
・環境保全ゾーン
クリスタルタウン周辺は、多気工業団地や相可台の住宅団地をはじめ、近年大きく開発されたため、このゾーンを緑地として残し活用しようと考えている。そのため、クリスタル線沿いに「クリスタルの森」と名づけた公園を造り、多気町に多く存在する「竹林」を使った公園整備をしている。
また、まちづくり仕掛人塾の人たちが中心となって、50aの竹林公園を整備している。(官民一体型)
・環境型工業ゾーン〜未来につづく産業拠点〜
活力ある地域社会を構築していくために、その原動力となる産業の育成が重要であり、「新たな働く場」として、環境への取り組みを重視しつつ緑と水と太陽を生かした低負荷循環型共生タウンを形成し将来にわたって町と企業の発展を導くことを目指している。

シャープ株式会社液晶三重工場(多気町)
【多気町企業立地奨励金制度】
対象者 − 日本標準産業分類の製造業
奨励金 − 1.土地取得価格の30%以内(限度額1億円) 2.5年に分割支払い
要件 −
1.多気町内であること
2.多気町の誘致により、工場等新設・増設・移設する企業
3.土地取得価格5,000万円以上
4.取得後2年以内に工場等建設着工すること
5.取得した土地は、計画に基づいて一体的な使用をすること
6.投下固定資産額が5億円以上(土地、建物、償却資産)であること
7.雇用者が10人以上であること
【税制上の優遇措置(多気町分)】
対 象 − クリスタルタウン工業ゾーンの製造業のみ
1.固定資産税3年間不均一課税
2.特別土地保有税非課税

4.視察のまとめ

(1) 農業振興施策と相可高等学校のレストラン運営について
1、高校生レストランのきっかけとなったのは、地元で取れた農産物を使った試食会を町のイベントとして企画したのが始まりであるが、それを仕掛けた町職員の熱意とバックアップした町と地域、そして学校の連携とうまくまとまっていったケースである。また、特色のある高校としての位置づけも完全なものとなっている。
2、まごの店で使う食材の多くは農産物直売所おばあちゃんの店から仕入れ、店から出た生ゴミは多気有機農業研究会に引き取ってもらい堆肥化され、それを利用して農家は農作物を作り育てる。まさに、地域循環型農業の展開となっている。地産地消と地産地商のダブル効果と合わせ、町の知名度アップにもつながり、町の活性化にも大きな効果となっている。
3、相可高校の食物調理科の卒業生は就職率100%とのことである。地元で店を開店したり、また、食の関連会社(レストラン、菓子店等)に就職したり、若者の定住化と雇用の促進にもつながっている。
4、自給自足、地産地消、どんなことがあっても町内で賄うことができる農業の展開。食の安全・安心のできる循環型農業の環境をつくるのが行政の仕事としていることは、本町の今後の農政の取り組みの中で大いに参考になるものと考える。
(2) 企業誘致と定住化促進(大規模住宅団地の分譲)について
1、大企業の進出により税収が約18億円であり、町政に大きく貢献しているようであるが、企業関係者の町内定住化については苦慮している。また、生活環境が便利な隣市への居住については、岩手県金ヶ崎町と同じ現象が見られる。
2、自然を生かした低負荷循環型タウンの形成により、働く場の良質環境の取り組みについては、本町の高付加価値・多機能型複合物流拠点「M−LC」構想においても参考になるものと思われる。